高齢化が急ピッチで進む現在、生活保護を受給している高齢者世帯(65歳以上)は全国で80万世帯を超え(2015年11月時点)、過去最多を更新しています。
年金の未受給や不安定な雇用を理由に「生活保護」を受給していても、介護保険の1割の自己負担すら捻出が難しい高齢者は、これまで以上に増えてくることでしょう。
あるいは、すでに介護保険料の低所得者向け減免を受けているにもかかわらず費用捻出が難しくなり、やむなく生活保護の申請を考えているケースもあるでしょう。
ここでは「介護保険」と「生活保護」の関係について、利用者として知っておきたいポイントを整理します。
まず当然ながら、拠って立つ法律が異なります。介護保険は「介護保険法」、生活保護は「生活保護法」が根拠法となります。
両者の根本的な違いは、介護保険は「保険料の負担を伴う、社会保険」であるのに対し、生活保護は「最低生活の保障と自立の助長を目的とした、保険料負担を伴わない(つまり税金によって賄われる)国の公的扶助」という点にあります。
生活保護制度(厚生労働省)
生活保護制度は最低生活の保障という面で、受給者の個別の事情に対応した8種類の扶助(金銭・サービスの給付)が用意されており、「最後のセーフティネット」としての役割を果たします。
一方で受給者の自立を支援すべく、福祉事務所に所属する「ケースワーカー」が担当となり、生活面の問題解決をサポートします。
したがって介護保険の利用者が生活保護を受ける場合、それぞれ担当のケアマネジャーとケースワーカーの間で、必然的に日常生活上の連携(情報の共有など)が図られることになります。
生活保護法には「補足性の原理(生活保護法4条)」が定められており、他の法律・制度で給付が受けられる場合は、原則として先にそちらを優先しなくてはなりません。
介護保険も、生活保護に優先適用されます。よって介護保険の第1号被保険者は、生活保護受給者であってもなくても、区分支給限度基準額の範囲内でサービスを利用することができます。
要介護認定や在宅サービス・施設サービスについても、範囲はほぼ同一です。施設サービスで介護保険上は自己負担(保険対象外)だった「食費・居住費」も、介護扶助から10割支給されます。
(生活保護受給者の施設サービス利用については 生活保護受給者と、介護施設への入所。 もご参照下さい。)
生活保護の「介護扶助」を使った住宅改修や、同じく住宅の維持を目的とした「住宅維持費」なども、所定の手続きを踏めば支給可能です。
介護保険の「住宅改修費」とのどちらを申請するかについては、申請手続きが異なるのでケースワーカーに相談するとよいでしょう。
介護保険制度における住宅改修、利用にあたってのポイント
またケアプランの作成に関しては、「全額自費のサービスが利用できない(区分支給限度基準額の範囲内に限られる)」点に、注意が必要です。
ケアプラン作成~契約に至るまで、介護保険利用者が注意すべき点
「特別徴収(年金の受給額が年18万以上)」の人の保険料は年金から控除され、それ以外の「普通徴収」の人は、保険料が生活保護の生活扶助に加算され支給されます。この場合は原則として、福祉事務所が市町村へ直接に保険料を納付(代理納付)します。
介護保険の第1号被保険者が生活保護の受給者でもあるなら、利用した介護サービス費の9割が介護保険から給付され、残りの1割(自己負担分)が生活保護の「介護扶助」から給付される形になります。
この1割については、福祉事務所から「(生活保護法)介護券」がサービス提供事業者に送付され、受給者本人を通さずに、請求・支払処理が行われます。
利用した介護サービスや本人負担額等は、この「介護券」にすべて記載されています(実際は自己負担が求められることはめったになく、あっても1割どまりでしょう)。
なお介護保険には第2号被保険者(40歳~64歳以下の医療保険加入者)の区分もありますが、生活保護受給者は医療保険の未加入者が多く、そのままでは介護保険の被保険者になることができません。
介護保険料~被保険者の種類で異なる納付方法・市町村で違う納付額
したがってこのような人は「みなし2号」として扱われ、介護費用の全額が介護扶助から負担されます。なんらかの事情で介護保険に加入できない(そもそも被保険者でない)場合も、全額介護扶助による介護サービスが受けられます(生活保護は保険制度でないことを、思い出して下さい)。
最後に、生活保護を使う場合は、「居宅介護支援事業所や介護サービス提供事業者は、介護保険法の指定のみならず、生活保護法の指定も併せて受けている必要がある」ことも覚えておきましょう。
指定を受けていない事業者は生活保護受給者に対するサービス提供が行えないため、ケアプラン作成等にあたっては、事前に指定事業者か否かの確認が必要になります。