介護保険を利用する側としては、介護保険制度そのものについてあまり細かな点まで知っておく必要はありませんが、それでも最低限の常識として押さえておきたいことがいくつかあります。
本サイトはあくまで、「介護保険の利用者としておさえておきたい、実用的・実際的な知識は何か」という点を中心にまとめてあります。
頭の片隅に置いておかれると、介護保険を実際に利用するときに直面する、問題や疑問への理解も進むでしょう。
●介護保険は平成12年(2000年)4月にスタート。制度ができてから、すでに17年が過ぎました。
介護保険を一言で言えば、「介護を必要とする高齢者とその家族をサポートするために、サービス提供するための保険システム」です。
根拠となる法律は「介護保険法」となります。
●介護保険制度ができた最大の理由は、日本の社会において少子高齢化が大きく進むなか、これまでの「老人福祉制度」「老人保健制度」をこの先も続けていると、将来的に国民医療費の増大により財政面でもパンクし、また制度としてもやっていけなくなるであろうことが予見されたためでした。
●老人福祉制度をささえる「老人福祉法」においては、老人医療費の自己負担は原則無料化されていました。
しかしその結果、病院の過剰受診やいわゆる「社会的入院」などが増え、老人医療費が激増しました。
また制度面でも、低所得の高齢者への配慮が中心となっていて、ごく普通の家庭が利用できるサービス提供は多くありませんでした。
介護の必要の有無を行政が決めるなど、利用者が使いにくい行政主体の制度でもあったことから、一般家庭の多くが介護を家庭内で丸抱えせざるをえず、社会的にも問題視されるようになりました。
このように、高齢者を国が保護するしくみのままでは、財政的に先行きもたない、そして介護を社会全体で支えるような仕組みにしていかないと、家族ももたない...ということで、「高齢者の日常生活の自立を、国が支援する」という考え方にもとづき社会保障・社会福祉の制度体系を組み直そう、ということになったのです。
そのトップバッターとして登場したのが、「介護保険制度」なのです。(その流れを受け、健康保険法の改正や後期高齢者医療制度などが、次々と後に続いているのはご存じのとおりです)。
●介護においては国民の保護・救済を第一目的とはしておらず、あくまで「国民が自己責任のもとで自立した日常生活がおくれるように、国が支援(サポート)する」という考えで、この介護保険制度の全体が設計されていることは、おぼえておきたいところです。
●(これに対し「最低限度の生活」を国民の権利として認め、給付を(保険でなく)税金で賄う所得保障・社会福祉の制度が「生活保護」です。 介護保険と生活保護~併用にあたっての注意点 ご参照)。
●介護保険は通常の保険と違い、いざ介護が必要なときに保険金(お金)が支払われる制度ではありません。
介護保険料を支払った人ならば原則として65歳以上から(40歳~64歳でも使えるが、利用の制限あり。 介護保険の被保険者なのに介護サービスが受けられない場合とは をご参照)、被保険者として「介護の必要に応じて、介護に関わるサービスを本来の料金の1割の負担で利用できますよ」という制度です。これはいわば、「現物給付」のシステムです。
●この介護保険法は、「5年ごとに内容を見直す」ことが定められています。
一回目の見直しの結果、平成18年(2006年)4月から「改正介護保険法」が施行されました。
このときの改正の目玉となったのは「介護予防の導入」「地域密着型サービスや地域包括支援センターの創設」に代表される、「予防重視型システムへの換転」でした。
介護保険制度ができた後、介護保険の利用者が想定の2倍を超えるスピードで増えたことから、高齢者の要介護度ができるだけ重くならないようにするためにも、この制度を「予防重視型」のシステムにしようということで、「介護予防サービス」が制度に正式に組み込まれたのです。
(介護予防については、姉妹サイト内記事 「介護予防」とは何か~その目的と、介護保険における位置づけ をご参照ください)。
●平成24年(2012年)4月、再度改正された介護保険法が施行されました。
この時の改正のメインテーマは、高齢者が住み慣れた地域で医療・介護・生活支援等のサービスを総合的に受けられるようにする「地域包括ケアシステムの構築」でした。
2012年(平成24年)4月施行、改正介護保険法のポイント。
地域包括ケアシステム(厚生労働省)
この前年(2011年)には、高齢者の住まいの整備を目的に「サービス付き高齢者向け住宅」も創設されました。
また、すでに社会問題化していたにも関わらず動きの乏しかった「認知症対策の推進」を謳い、地域の実情に応じた認知症支援策を、国としても後押しする方針が示されました。
●そして平成27年(2015年)4月からは、2014年に成立した「地域医療・介護総合確保推進法」の理念に沿うかたちで、5年を待たず再び改正された介護保険法が順次施行されています。
平成27年(2015年)の介護保険改正(1)~特養への新規入所者を限定
2014年改正の特徴は、「社会保障全体の枠組み」の中で医療と介護の連携を強化して、介護保険制度の再構築を図ろうとしている点です。
国として限りある資源をどの部分に重点的に投下し、どの部分の費用を削って効率化していくかについて、「医療・介護・介護予防・生活支援などを、一体のものとして考える」社会保障制度改革の名のもとに「地域医療・介護総合確保推進法」が作られ、その展開の一つとして介護保険法でも改正が施されたわけです。
具体的には、前回の改正で登場した「地域包括ケアシステム」をさらに洗練させて「地域の医療機関・介護施設の効率化と連携」をはかり、同時に「在宅医療や在宅介護の普及」を促そうとしています。
端的にスローガンでまとめると、「国から地域へ」「施設から在宅へ」「入院から予防・リハビリへ」と言えそうです。
国の要支援者向け介護保険サービスの一部が市町村の事業に移されることは、そのひとつの典型例かもしれません。
平成27年(2015年)の介護保険改正(3)~一部サービスの市町村移管
いずれにせよ、こういった仕組みを定着・普及させることによって膨張する社会保障費を抑え、介護保険制度の持続可能性を高めることが国の狙いですが、その思惑どおり進むかどうかは今後を注視する必要がありそうです。
ここまでご説明した介護保険制度改正の推移を、以下にまとめておきます。
改正年度 | 施行年月 | 改正のポイント |
---|---|---|
2005年改正 | 2006年4月 | 「介護予防」の導入 「地域密着型サービス」の創設 |
2011年改正 | 2012年4月 | 「地域包括ケアシステム」の構築と推進 市町村の権限強化/認知症対策の推進等 |
2014年改正 | 2015年4月 | 「地域医療・介護総合確保推進法」に基づく、地域の在宅医療・在宅介護の連携を推進 一部の介護保険サービス(訪問介護・通所介護)を、市町村事業に移管 |