平成27年(2015年)4月から、「改正介護保険法」が順次施行されています。
平成26年(2014年)6月、地域における医療・介護の総合的な体制(「地域包括ケアシステム」)を整えるための「地域医療・介護総合確保推進法」が成立し、施行されました。
この新法による大きな枠組みのもと、介護保険法や医療法等においても、必要な改正が加えられました。
今般の改正においても、とりわけ介護保険の利用者に影響を与える非常に重要な改正点が含まれています。以下、3記事に分けてそのポイントを解説します。
そもそも、介護保険法は原則5年ごとに見直されることになっていますが、今回の改正は前回から5年を経たずして行われました。それほど介護保険を取り巻く環境は急変しており、前倒しで対応せざるを得なかったわけです。
平成24年(2012年)の介護保険改正(1)~定期巡回・随時対応サービス
周知のとおり、高齢化による「要介護人口の増大」、そして少子化による「制度を支えるべき現役世代の先細り」を背景に、社会保障費は年1兆円のペースで増大し続け、国の介護保険財政もひっ迫した状況が続いています。
そのため政策的には、「国の給付減」と「利用者の負担増」によって対応せざるを得なくなります。
具体的には、要介護度が軽い人のサービスを絞ったり、在宅での医療・介護への誘導を図る一方で、重度者へのケアや認知症患者に対し、地域の関係機関が連携して対応しやすくなるような仕組みを、国として整えようとしています。
また利用者に対しては「自己負担額の増加」「保険料を負担する層の見直しや拡大」といった方法で、利用者の負担を直接ないし間接的に増やしていきます。
今後を踏まえた大きな流れとして、国が「医療と介護を一体化」し、これまで国の負担で行ってきたことを、地域の医療や介護に関わる組織で対応できるよう、権限やシステムを地域に段階的に移譲する政策(地域包括ケアシステムの構築)を急ピッチで進めていることを、介護保険の利用者はよく認識しておく必要があります。
平成24年(2012年)の介護保険改正(2)~「地域包括ケア」の推進
なお、今回の改正のすべてが平成27年(2015年)4月から一斉に施行されるわけではなく、一部の改正は時期が遅れて実施されることにご注意下さい。
また平成27年(2015年)の介護保険改正(3)~一部要支援サービスの市町村移管 の(4)でご説明する「一部要支援者向け事業の地方自治体への移行」は、平成27年(2015年)4月から3年の間[平成27年(2015年)度~平成29年(2017年)度末]に、開始時期を地方自治体が自ら定めることができます。
(1)特別養護老人ホーム(特養)への新規入所を、原則「要介護3以上」に限定[平成27年(2015年)4月実施]
特養は費用が他の介護施設に比べて低廉な反面、全国的に待機者が多く、地域によっては数年待ちも珍しくない現状です。
介護保険施設(1)〔介護老人福祉施設〕
この特養への入所は、これまでは要介護認定で「要介護1」以上なら、制度上は入所を希望することができました。
しかし厚生労働省のデータによると、40万人強の特養への入所申込者(待機者)の7割程度が「要介護3」以上だったとのことです。 また平成23年(2011年)の要介護3以上の特養への入所者は、全体の約9割に達しています。
その実情に照らし、「入所条件を絞って、本当に特養での生活を必要とする待機者に利用してもらおう」とする意図も、改正の背景にあるようです。
なおこの改正は法施行後に新規に申込む者が対象であり、現時点で特養に入所中の要介護度1・2の方は、引き続き入所できます。
加えて、たとえば入所時は要介護3だったが状態が改善し、新たに要介護2と認定されても、経過措置として引き続き特養に入所し続けることができます。
また改正法施行後も、決して「要介護3以上でないと例外なく特養に入所できない」ということではありません。
「やむを得ない理由により、特養以外の施設では見守りが著しく困難であると判断された場合」は、要介護度1・2であっても、市町村の関与を条件に入所を認めるという「特例入所」が、あわせて設けられています。
したがって今後、たとえば身体的には元気な要支援2の認知症の方などが特養への入所を希望する場合、判定において市町村の関わりが強くなることは踏まえておく必要があります。
どのようなケースが「やむを得ない理由」になるかについては、省令として今後もいろいろ追加されていく可能性が高いですが、現状では「認知症で徘徊などがあり、常時の見守りが必要」「本人の知的障害・精神障害等のため、地域での安定的な生活が困難」等の事例が挙げられています。
平成27年(2015年)の介護保険改正(2)~利用者負担と補足給付の見直し に続きます。