介護保険とは何か~介護保険制度ができた背景・制度の本質 で述べたとおり、介護保険制度は原則5年ごとに、制度の「大きな見直し」を行います。
平成18年(2006年)4月に「改正介護保険法」が施行されましたが、そこでは「介護予防の導入」「地域密着型サービスの創設」が、大きな変更ポイントになりました。
そして今回、平成23年(2011年)6月に国会で成立した「介護保険法の一部改正」にもとづいて、平成24年(2012年)4月から改正介護保険法が施行されました(一部は法律の成立時にすでに施行)。
介護保険の利用者としては、改正内容のすべてを知っておく必要はありませんが、改正の背景にある国の考え方と、利用にかかわる重要なポイントは、押さえておきたいものです。
今回の介護保険の改正で国が重視したのは、『高齢者が住み慣れた地域で、医療・予防・介護・生活支援のそれぞれを、切れ目のない一体的なサポートとして受けられる』体制をつくることでした。
これを「地域包括ケア」システムと呼び、大きく次の6項目によって、その実現を目指そうとするものです。
1. 「医療」と「介護」の連携を強化する
2. 介護の人材を確保し、介護サービスの質の向上をはかる
3. 高齢者の住まいの整備(「サービス付き高齢者向け住宅」の供給等)をはかる
4. 認知症対策を推進する(市民後見人の活用など)
5. 保険者である市区町村の、主体的な取り組みを進める
6. 介護保険料の上昇の緩和(各都道府県の財政安定化基金の活用)
そして1.の「医療」と「介護」の連携強化の一環として、市区町村が保険者として指導監督を行なう「地域密着型サービス」となる「定期巡回・随時対応サービス」が創設されました(「24時間地域巡回型訪問サービス」とも呼ばれます)。
新設されるもう一つの地域密着型サービス「複合型サービス」と共に平成24年(2012年)4月からスタートしています。
今回の改正の目玉とも言える「定期巡回・随時対応サービス」ですが、一言で言えば「24時間365日、日中・夜間を通じて切れ目なく」身体介護を中心とした短時間の介護・看護サービスを行ったり、利用者の求めに応じた短時間の巡回訪問を行なう、というものです。
これまでも「地域密着型サービス」の一つとして「夜間対応型訪問介護サービス」が用意されていました(「地域密着型サービス」の概要。 ご参照)。
しかしこれは介護のみに限られ、時間帯ももっぱら夜間に限定されていたため、利用者側のニーズに応じた使い勝手のよいサービスとまでは言えませんでした。
「定期巡回・随時対応サービス」では、利用者は要介護度に応じて定額の月額利用料を払い、10~20分といった短時間のケアを必要に応じて、一日のどの時間帯であっても臨機応変に受けることができるようになります。
特にサービス時間の上限が設定されているわけではありませんが、「短時間のサービスを日に複数回」という性質のため、遠方への買い物や本格的な掃除などの「一回あたりの時間を長く必要とするサービス」には向いていません。
コールセンターの常駐オペレーターに、専用ボタン端末や電話を使って連絡することによって、利用者は看護師などの専門家リアルタイムでと話すことができ、必要に応じてヘルパー等の派遣を要請することができる仕組みです。
サービスの利用料は他サービスと同様に要介護度に応じた設定となっていますが、さらに「訪問介護を利用する場合」と「利用しない場合」に応じて、金額が変わってきます。
訪問介護のような「定時サービス」にこの「随時サービス」を組み合わせることにより、今後は地域ごとの実情に応じた新たな介護サービスを作っていくことも可能になるものと期待されています。
この「定期巡回・随時対応サービス」、利用者にとってはいいことづくめに思えますが、いくつかの問題も懸念されています。
まず、これまで複数のサービスを組み合わせて使っていた中で「新サービスの利用料は、自分の場合はトータルでいくら位になるのか」さらに「新しいサービスの分、これまで利用してきた訪問介護や訪問看護サービスなどを削らなければならないのか」といった点が、利用者としてはやはり気にかかるはずです。
地方に住む利用者にとっては、たとえば事業者が車で片道1時間をかけて、10~20分のサービス提供のため日に数度も訪ねてきてくれるかどうか、といった心配もあります。
ケアプランを作るときは、ケアマネジャーの力量がますます問われると同時に、利用者としても一層の注意が必要になります。
また地域によっては、サービス提供に必要な「看護師やヘルパーの絶対数の確保」が問題となりそうです。
緊急時の連絡で利用者宅に駆けつけるケースが増えると見込まれるため、事業所にとっては特に「看護師をどう確保するか」も大きな課題となりそうです。
たとえ人員確保ができたにせよ、新サービスに対する利用者の周知が想定ほどに進まなかった場合には、事業者は経営面で赤字になる可能性もあります。
オペレーターと連絡を受ける専門家との間で、「24時間365日の連絡体制」をサービス提供側がうまく築けるかどうか、といった実際的な問題もあるでしょう。
2012年4月1日からすぐ、利用者の地域の事業所が新サービスを開始したわけではないのです。
かりに「新サービスによる利益確保が難しい」との認識が事業者間に広まった場合は、その普及がなかなか進まない可能性もあります。
事業者側の利益確保の面からも、「複数の高齢者が集う介護施設」を主な対象として本サービスを展開していくスタイルが主流になるだろう、と予測する声も出ています。
このように見ていくと、利用者の住む地域や状況によっては「実際のサービスの利用が難しい」といった問題も起こってくるでしょう。
それに起因する「都会と地方の介護サービスの地域格差」などが、今まで以上に広がる可能性もあります。
平成28年(2016年)12月末現在、厚生労働省の調査では、「定期巡回・随時対応サービス」を実施している事業所の数は全国で953となっています。
サービスの実施先が市内に1事業所だけという県も多く、「定期巡回・随時対応サービス」が全国にあまねく普及するには、まだ時間がかかりそうです。
【PDF】定期巡回・随時対応型訪問介護看護 指定事業所数(平成28年12月末・厚生労働省)
これからのサービス普及および今後の推移を見守る必要がありますが、つまるところ、これまでの介護保険サービスと同じく「利用者が暮らす地域の事業所の経営やケアマネジャー・ヘルパーらの資質によって、最終的に利用者に提供されるサービスの質そのものが左右される」ことになりそうですね。
平成24年(2012年)の介護保険改正(2)~「地域包括ケア」の推進 に続きます。