平成29年(2017年)の介護保険改正(1)~現役並み所得者の自己負担が3割に に引き続き、改正点のポイントを解説します。
(2)被用者保険の第2号被保険者(40~64歳)保険料に「総報酬割」を導入[平成29年(2017年)8月施行]
国民健康保険の加入者(自営業者・農林水産業従事者・無職者等)にとって、「総報酬割」はなじみのない用語ですね。
主に会社員は「健保組合」「協会けんぽ」、公務員は「共済組合」(以下、この3組織は「医療保険者」)に加入しその構成員となることで、「被用者保険」の被保険者となります。
大まかに分類すると、健保組合では「大企業の会社員」、共済組合では「公務員」、そして協会けんぽでは「中小企業の会社員」が、主な被保険者になります。
40~64歳の医療保険加入者(「介護保険の第2号被保険者」に該当)は、医療保険にあてるための一般保険料とは別に、介護保険料を負担することになっています(会社員の方なら給与明細の「介護保険料」の項目欄で、きちんと源泉徴収されていることはご存知ですね)。
これが「第2号被保険者」の介護保険料で、加入者(被保険者)から集めた保険料は、それぞれの医療保険者が「介護納付金」として一括で納めています。
現状で「第2号被保険者」の介護保険料は、介護給付費財源の約28%を占めています。
これまで医療保険者が納めていた「介護納付金」は、「加入者1人あたりの基準額×加入者数(被保険者数)」に応じて計算されていました。
今回の改正により、「加入者数(被保険者数)」でなく、「加入者の総報酬額」の総額に比例させて納付金を決めることになりました。これが「総報酬割」です。
それではなぜ、今回このような改正が行われたのでしょうか?
当然ながら働く方々の勤める企業の規模や収益力によって、給与収入の水準は異なりますよね。
国の介護保険財政の厳しさが増す環境下、「企業の従業員数」をベースにするよりも、「企業が従業員に支払う報酬総額」を基準にするほうがよい、と判断されたわけです。
言いかえれば、「医療保険者の財政力(つまり、その医療保険者に所属する加入者の給与所得水準)」に応じて計算した負担額にするほうが社会的により公平だ、という捉え方です。
現状では同じ健保組合であっても、加入者の平均報酬額は上位10組と下位10組の間で、「1人あたり570万円」もの差が生じています(2014年実績)。
こんなに差があるのに負担する保険料が同額というのは、制度として不公平では‥‥という点が、クローズアップされたわけですね。
(念を押しておくと、この計算方法の改正はあくまで「(前述の)第2号被保険者に関してのみ」の話です。国民健康保険についてはこれまで同様、「加入者数に応じて」計算するルールのままです。)
試算によると、この改正の全面導入によって、負担増となる人が約1,300万人、逆に負担減となる人が約1,700万人と見込まれています。
個々人が加入する医療保険者により金額は異なるものの、共済組合や健保組合の加入者は月々の保険料負担がアップする一方で、協会けんぽに加入する中小企業の加入者等は負担減になります。
当然、保険料負担が増す人へ々の影響が大きいという話になり、いわゆる「激変緩和措置」が設けられました。
これにより、今回の改正は「2017年8月~2019年3月」は「総報酬割分の2分の1が対象」、「2019年4月~2020年3月」は「総報酬割分の4分の3が対象」、そして「2020年度から全面導入」と、段階を経て実施されることになっています。
(3)介護療養病床の転換先として「介護医療院」を新設[平成30年(2018年)4月施行]
介護保険施設として、「介護医療院」を新設することになりました。
(そもそも「介護保険施設」って何?という方は、こちらの記事 をご参照ください。)
「介護医療院」は要介護者の長期療養のための医療、および介護のための生活を一体的に提供する施設として、介護保険法を根拠とする「施設サービス」に新たに加わることになります。
「介護医療院」は医療提供施設でもあるため、一括法として同時改正された「医療法」にも位置づけられています。
「介護医療院」は、2018年全廃予定で話が進められてきた、いまだ全国で約5万9千床(2016年3月末現在)が残る「介護療養病床」の主な転換先として位置づけられています。
ただし改正法の条文上は、介護療養病床からだけでなく、医療療養病床や(医療保険施設の)一般病床からの転換も想定しているようです。
現状の入居施設からスムーズに転院・転居ができない場合、いわゆる「介護難民」の大量発生につながりかねません。
今回の改正では介護療養病床から介護医療院への移行期間も考慮し、現行の介護療養病床の廃止期限を、2018年3月末から「6年延長」することとなりました。
(介護療養病床の概要とその廃止に関わる経緯については、こちらの記事 をご参照ください)。
介護医療院に入居できる利用者の要件や、どういった施設基準とするか等、詳細についてはこれから社会保障審議会・介護給付費分科会で議論される予定です。
今回の法改正で決まっているのは、「(少なくとも)療養室・診察室・処置室および機能訓練室を設ける」点です。
施設の最低基準にかかる現状の方向性としては、「現行の介護療養病床のうちの療養機能強化型」に相当するもの及び「現行の老健施設相当以上」の、2類型が示されています。
現段階で「介護医療院」の大まかなイメージを描くなら、「病院の中で、リハビリ等も行いながら日々の(要介護)生活を営める施設」となるでしょう。
利用者やその家族にとって、安心感の得られるもっとも魅力的な介護施設となる可能性も高く、国がこれまで介護療養病床の転換先として進めてきた「新型老健」や、民間の介護付有料老人ホーム等とのすみ分けはどうするのか、といった課題も出てきそうです。
いずれにせよ、介護報酬がいくらに設定されるか、あるいは政策的に特例措置等が用意されるか否かなどで事業者(運営主体)のやる気も違ってくるため、今後の議論の推移を見守る必要があります。
平成29年(2017年)の介護保険改正(3)~共生型サービス・市町村の権限強化 に続きます。